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大阪地方裁判所岸和田支部 昭和38年(ワ)135号 判決

原告 国

代理人 叶和夫 外三名

被告 西紡績株式会社

主文

被告は原告に対し金百五十二万千九百円及びこれに対する内金九十二万九千六百円につき昭和三十八年十月五日より、内金四十二万七千五百円につき同三十九年七月三日より、内金十六万四千八百円につき同年十一月二十日よりそれぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし

訴訟費用は被告の負担とする

この判決は金五十万円の担保を供するときは仮に執行することができる

事  実〈省略〉

理由

一、原告主張の事実は被告の認めるところである

二、よつて被告の時効の抗弁について判断する

(一)先づ被告は原告が滞納者に対し債権差押をした場合に滞納債権(以下甲債権と称する)の時効は中断するが、滞納者が被告に対し有する債権(以下乙債権と称する)の消滅時効は中断しない旨主張しているので案ずるに

(1)民法第百四十七条においては(イ)請求、(ロ)差押、仮差押、仮処分、(ハ)承認の三者を挙げて時効中断の事由としているところ、これ等を中断事由としているのは権利者によつて真実の権利が主張せられ又は義務者によつて真実の権利が承認せられたために真実の権利関係と異なる事実状態の継続が破られたからである、従つて右三者以外の事実でもこれと同一の実質を有する事実の存する場合はこれに準じて時効中断の事由と認めるべきであること

(2)本件において問題とされているのは右の内の差押に関してであるが法文では単に差押とのみ記載されているのでこれを形式的に見れば差押を受けたのは甲債権であるから時効が中断されるのは甲債権のみであつて、乙債権は中断されないようであるが、時効の制度は真実の権利状態と異つた事実状態が永続した場合にその事実状態をそのまま権利状態と認めこれを適応するように権利の得衷を生じさせるものであり、時効の中断はその事実状態の継続を破るところのこれと異なる真実の権利関係の主張がなされた場合に従来の事実状態を保警すべき理由がなくなつたものとしてそれまでに経過した時効期間を一応御破算とするものであること、滞納処分による債権差押の効力は債務者(本件における滞納者に当たる)に対して第三債務者(本件における被告に当たる)に対し有する債権(乙債権)の取立その他の処分をなすことを禁じ、第三債務者に対して乙債権を債務者に弁済することを禁ずる外債権者(本件における原告に当たる)に対して第三債務者から乙債権を直接に取立ててこれを甲債権の弁済に充て得ることができるものであるから、本件債権差押に当つては被告に対して乙債権を債務者に支払うことを禁ずると共に乙債権についてこれを所轄税務署に支払うべき旨の通知がなされているものであること及び被告が右通知に基づいて乙債権について昭和三十五年一月分より同三十六年十月分迄の給料の内の金三十六万四千二百三十四円を原告に支払つている事実(この支払の事実については被告にも争のないところでありこの支払をもつて時効中断の事由の一たる承認と見るか否かは兎も角として)

等を考え合わすときは甲債権におけると同様乙債権についても従来の事実状態の継続を破るべきこれと異つた真実の権利関係の主張がありこれによつて従来の事実状態は明瞭に破壊されたものとしてその消滅時効が中断されるものと認めるのを相当とする

(二)次に被告は原告主張の債権は給料債権として民法第百七十四条第一号の一年の短期時効にかかるものであるから昭和三十七年九月以前の分は消滅時効が完成している旨主張しているのであるが前示認定の如く債権差押により甲乙債権の消滅時効は中断されるものであり、原告が原告主張の差押を昭和三十五年一月二十日になしその差押命令及び乙債権を原告に支払うべき旨の通知が同月二十五日に被告に到達していることは被告の認めるところであるから乙債権の消滅時効は右一月二十五日に中断せられたものである、そして弁論の全趣旨によると右債権差押手続は未だ終了していないことが明らかであるから乙債権の消滅時効は中断せられたままその進行を始めていないものであるところ本件において原告が支払を求めている給料債権は昭和三十六年十一月分以降のものであるから被告主張の時効期間の判断をなすまでもなく原告が請求している債権は未だ消滅時効が完成していないものである。

三、以上のとおり被告の抗弁はその理由がないものである。

そうすると被告は原告に対して原告主張の給料債権金百五十二万千九百円及びこれに対する内金九十二万九千六百円につき支払命令送達の翌日なる昭和三十八年十月五日より、内金四十二万七千五百円につき昭和三十九年七月二日付請求の趣旨拡張申立書交付の翌日なる同年七月三日より、内金十六万四千八百円につき同年十一月十九日付請求の趣旨拡張申立書交付の翌日なる同年十一月二十日より(以上の日時はいづれも記録上明白である)いづれも完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払はねばならないものである。

四、よつて原告の本訴請求を正当として認容し民事訴訟法第八十九条第百九十六条を適用して主文のとおりに判決する。

(裁判官 永井米蔵)

(別紙第一、二目録省略)

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